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東日医療新聞

気になったニュース(主に医療系)について書いていきます。

日本は感染症対策の後進国?(3) ~日本と韓国における麻疹対策の相違~ ②蔓延から対策まで

前回の続きです。

 

>2000年に報告された麻疹患者の年齢別罹患状況は、 一つのピークが0~1歳代にあり、 さらに大きいピークが10歳前後の小学生年齢であった。これらの患者のMMRワクチン接種状況は、 低年齢では未接種での発症が圧倒的に多いが、 年齢が高くなるほど麻疹ワクチン1回接種者での発症が多くなっており、 secondary vaccine failureの増加と考えられた。しかし、 1回目のワクチンの効果が十分ではなかったprimary vaccine failureの可能性も否定されているわけではない。

学童の麻疹に対する免疫保有状況は、 韓国では85%前後と低くなっている。この年齢層は、 麻疹ウイルスの侵入に対して感受性が高く危険度が高いと考えられるところから、 麻疹の対策のポイントとしてこの年齢層をターゲットにするとされた。(引用終わり)

 

注)

Primary Vaccine Failure:予防接種を受けてもうまく免疫がつかないことが数%あること。

Secondary Vaccine Failure:予防接種を受けて一旦ついた免疫が長い年月の間にしだいに弱くなり、病気を防げなくなってしまうこと。

 

韓国では、2000年代に学童期における麻しんの流行が問題視され、国を挙げての対策に乗り出しました。

その内容とは、以下のようなものでした。

 

1)1歳時でのMMR接種の徹底に加えて、 小学校入学前のMMR接種を徹底し、 ワクチン2回接種率95%以上を目標とする。

2)学童での感受性者を短期間に減少させ、 そこから他の年齢層への流行拡大を阻止するため、 2回目の麻疹ワクチン未接種学童へのワクチン接種を徹底的に行い(catch-up immunization)、 感受性者を5%以下にする。

 

注)

MMR:麻疹(measles)、おたふく風邪(mumps)、風疹(rubella)の三種混合ワクチン。

感受性者:感染症が発生するとき、病原体の侵入を受ける人のこと。

 

実はこのMMRワクチン、おたふくかぜ(ムンプス)ワクチンによる無菌性髄膜炎の発生率の高さを問題視され、日本では1993年に接種が中止され、現行のMRワクチン(麻しん風しん混合ワクチン)に移行しました。

また、後に虚偽だと判明したのですが、1998年にはこのMMRワクチンの接種と自閉症との間に関係性があるとする論文が発表されています。

このようなワクチンの接種を推進できるのも、(良い悪いは抜きにして)ワクチンによる薬害が大きな社会問題化せず、行政機関がワクチン推進に動きやすかった韓国ならではの事情があったのでしょう。

>この実施のため、 韓国厚生省副大臣をはじめ、 医師会、 予防衛生研究所(NIH)、 小児科学会、 予防接種委員会および、 PTAなどを含むその他のNGOに加えて、 文部省の参加も得て、 国家麻疹対策委員会が発足した。

麻疹ワクチンの徹底のため、 地方自治体より小学校入学前の子供を持つ保護者に、 入学に必要な書類に加えて麻疹の2回目接種証明用紙が配布された。これによって99%の子どもたちは2回目の麻疹ワクチンを受けることになる。特別な例外を除いて、 学校は必要な予防接種を受けていない子どもの入学を拒否できることが学校保健法で定められており、 この徹底も行われた。(引用終わり)

 

日本の「学校保健安全法」では、ワクチン未接種者に対する入学拒否どころか、ワクチンの接種義務さえありません。

(注:予防接種法には「努力義務」として規定されています)

これにより、集団生活を送る学校において感染防止策が十分にとれないという問題があります。

 

次回、この対策を実施したあとの状況について書きます。

 

(参考にさせていただいたWEBサイト)

感受性者 | ニューワイド学習百科事典 | 学研キッズネット

はしかの症状 治療 予防接種 | 沖縄県はしかゼロプロジェクト

http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000002mcip-att/2r9852000002mdgz.pdf

http://www.mext.go.jp/component/b_menu/other/__icsFiles/afieldfile/2009/02/19/001_7.pdf

 

 

日本は感染症対策の後進国?(3) ~日本と韓国における麻疹対策の相違~ ①ワクチン導入期

前回までの記事で、日本が「感染症対策の後進国」となってしまっている理由について説明しました。

では、どのような対策を採ればよいのでしょうか。

もちろん、ワクチンの接種率を上げればよい、というのは正しい回答ですが、

それが簡単にできれば厚労省のお役人も苦労しません。

 

では、諸外国ではどのようにしてワクチンの接種率を向上させてきたのでしょうか。

まずは、韓国における麻疹に対する取り組みを、日本と比較しながら見ていきましょう。

以下のURLから引用します。

国立感染症研究所 韓国における麻疹とその対策」

http://idsc.nih.go.jp/iasr/22/261/dj2610.html

 

①ワクチン導入期

>韓国は1963年に麻疹ワクチンを生後12~15カ月児への定期接種として導入、 以来麻疹患者数は減少した。1982年にはMMR(measles, mumps, rubella)ワクチンを導入、 接種率は90%を超えさらに発生数の減少が見られた。しかし1994~95年に約1万例の麻疹が発生したため、 4~6歳での追加接種方式を取り入れた(supplementary immunization)。以来、 韓国における麻疹ワクチンはMMRによる2回接種となっており、 1999年の麻疹は全国で13例であった。しかし2000年の10月頃から麻疹患者発生数が再び急増し、 10月約2000例、 11月約12,000例、 12月には約15,000例が報告され、 2000年の合計患者数は54,000例となった。(以上引用終わり)

 

ここまでは日本とほぼ同じ道を辿っているのですが、実はこの時点でも韓国のほうが先進的であったのです。

日本が麻疹ワクチンを導入したのは1966年で、定期接種になったのはさらに1976年と、実に韓国に13年もの遅れを取っていたのです。

さらに、麻疹ワクチンの定期接種を2回としたのはなんと2005年と、これも韓国に10年も遅れを取っています。

 

もちろん、日本の公衆衛生行政が怠慢であったために導入が遅れたわけではありません。

実は、戦後すぐの時点では、日本の予防接種行政は非常に迅速なものでした。

敗戦からわずか3年後の1948年には、天然痘、百日咳、腸チフスなどの12疾病を対象とする「予防接種法」が制定されました。

戦後すぐの衛生状況が悪い時代においては、感染症による社会的損失が甚大であったため、接種は「義務」とされ、怠った場合には罰則もある厳しいものでした。

しかし、この「予防接種法」が制定されたその年に、「京都・島根ジフテリア予防接種禍事件」が発生してしまいます。

これは製薬会社のミスによって無毒化がされなかったワクチンが、国の検定を通り、そのまま接種されたことによって84人もの死者を出してしまったという事件でした。

その後も続々と起きたワクチンによる薬害(種痘、DPTワクチンなど)が社会問題化していきました。さらに、衛生状態の向上により、感染症の危険は減少していきました。

当然の帰結として、世論は予防接種に懐疑的になり、行政も抑制的な態度をとるようになっていったのです。1976年には予防接種法の罰則が廃止されました。

さらに追い打ちをかけるように、1992年にはMMRワクチンによる無菌性髄膜炎の発生について国の責任を認める判決が東京高裁で出されました。

これを受けて、1994年には予防接種法が全面改正され、「義務規定」が「努力規定」に変更されました。

このような流れの中で「接種するワクチンの種類、回数を増やす」ということは現実的に難しいことだったでしょう。

 

対して韓国では、(詳細は省略します、多少語弊がありますが)独裁政権が続き、完全な民主化がなされたのは1987年のことでした。

(ここからは私の推測です)

そのため、ワクチンによる薬害が表沙汰にならなかったのではないでしょうか。

ワクチンの成分自体も日本と大きくは変わらないでしょうし、韓国国内のワクチン製造技術が著しく高かったとも考えにくいので、日本で起こったような薬害が存在しなかったというのは不自然に感じます。

(以上、推測終わり)

もちろん独裁政権を擁護する気は全くありません。大多数に効果があるからといって、薬害のあるワクチンを放置するのが良いこととも思えません。

ただ、善悪の判断は抜きにして、結果としてワクチンによる感染症対策は日本より早く進んだ、ということだけは事実として認めなければならないでしょう。

 

(参考にさせていただいたWEBサイト)

日本における予防接種の歴史―日本はワクチン後進国?|メディカルノート

医学書院/週刊医学界新聞(第3058号 2014年01月06日)

「予防接種制度について 厚生労働省

http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r98520000033079-att/2r985200000330hr_1.pdf

「1948 年京都・島根ジフテリア予防接種禍事件」

http://pha.jp/shin-yakugaku/doc/40-155-156_2011_kurihara.pdf

医療情報室レポート�bP99( 特 集 : 我が国の予防接種行政を考える )

日本は感染症対策の後進国?(2)

さて、なぜ日本ではここまで感染症対策が遅れてしまったのでしょうか。

普通に考えれば、日本はむしろ感染症対策において世界をリードしてもおかしくないレベルの好条件に恵まれています。

WHOから世界一のお墨付きを得た国民健康保険制度を持つ上に、経済的にも豊かな国です。低所得者でも病院にかかりやすく、感染症が蔓延しにくい環境であるはずです。

さらに言えば、日本は島国であり、移民も受け入れていないため、大陸諸国よりも感染者の制御はしやすいでしょう。

 

……実は、問題は主に「VPD」(Vaccine Preventable Diseases)、すなわちワクチンで防げる感染症の蔓延なのです。

前回挙げた感染症(麻疹、風疹、結核肺炎球菌感染症ロタウイルス感染症)には全て、有効性の高いワクチンがあります。

(ただし結核の予防接種であるBCGは、小児には効果が高いものの成人にはあまり効果がないとされている)

しかし、日本では接種率が他国と比較して非常に低いため、これらの感染症が跋扈しているのです。

 

もちろん、ワクチンが存在する感染症などごく一部ですし、接種しても効果がないこともあります。したがって、感染症がはびこるのは接種率の低さだけが問題とは限りません。

しかし、重篤で、流行が起こりやすい感染症についてはワクチンである程度カバーされているのも事実です。(逆に、重篤で流行が起こりやすい感染症だからこそワクチンが開発された、とも言えます)

主にはこのワクチン接種が不十分であるために、日本は感染症対策の後進国という烙印を押されてしまっているのです。

 

では、この問題に対してどのような対策を採ればよいのでしょうか。

海外の事例を交えながら、次回解説していきます。

 

(ここまで参考にさせていただいたwebサイト)

Know VPD! - ワクチンで防げる病気(VPD)を知って子供たちの命を守る

トップページ|公益財団法人結核予防会

感染症疫学センター

WHO | Data, statistics and graphics

第3回 アメリカは再興感染症「結核」をどのように克服したか | 日本BD

【日本の議論】「結核」いまだ減らない日本 “中蔓延国”になってしまう理由 - 産経ニュース

日本のはしか「排除状態」 WHOが認定 国内由来の感染3年間なし - 産経ニュース

日本は感染症対策の後進国?(1)

日本人は、世界的に見ても清潔好きの国民だと言われています。

抗菌・除菌グッズは飛ぶように売れ、冬の電車内ではかなりの割合の人がマスクをつけています。

 

しかし、そんな日本が世界から「感染症対策の後進国」と言われていることは、あまり知られていない事実なのではないでしょうか。

 

例えば、前回の記事でも取り上げた麻疹。

実は、流行しているのは日本とアジア、アフリカの途上国くらいで、南北アメリカ、中東、欧州諸国、韓国などでは既に「排除状態」(ウイルスの国内株が絶滅)となっています。

世界的にはそのような状況であるにもかかわらず、日本では2007,2008年に大流行が起こりました。

その流行中に修学旅行で日本からカナダを訪れた高校生が麻疹になり、現地の保健当局から全員がホテルで待機を命じられ、飛行機の搭乗も拒否されるという事態さえ起きました。

このような状態に厚生労働省も危機感を持ったのか、ワクチン接種を乳児期の1回しか受けていない年代の人に対し、追加で無料接種が受けられる制度を実施しました。

これが功を奏し、日本も2015年にようやくWHOから「排除状態」であると認定されました。

しかし、そのわずか一年後である今年になって、前回記事でも述べたとおり、また流行を起こしています。

 

また、結核に至っては、日本は未だに「中蔓延国」(人口10万人に対し罹患者10人以上)と位置づけられています。

2012年のデータでは人口10万人あたりの罹患率が16.7人であり、これは欧米諸国と比較すると4~5倍以上高い数値です。(画像参照)

f:id:tokoshinbun:20160904100558p:plain

 

さらに、 風疹に関しては、2012~13年にかけて成人男性を中心に流行し、44例の母子感染例(先天性風疹症候群)が発生するという「先進国にあるまじき事態」になりました。

米国やカナダ等からは、妊婦に対する予防接種の推奨や、日本への渡航注意喚起も発令されました。

 

これ以外の感染症肺炎球菌感染症ロタウイルス感染症など)についても、日本の取組みは遅れているのが実情です。

 

ではなぜ、日本はここまで感染症対策が遅れてしまったのでしょうか。

次の記事で解説します。

 

 

 

麻疹流行 一体誰が悪いのか?

麻疹流行 一体誰が悪いのか? 

ここ数日間、麻疹に関するニュースが相次いで報じられています。
主には関西国際空港の従業員の集団感染についてです。

関西空港で働く16人がはしかに 利用者に感染おそれも(8月31日)」
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20160831/k10010663251000.html
「新たに10人 関西空港の従業員に はしか広がる(9月1日)」
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20160901/k10010664751000.html

しかし、それ以外にも千葉県松戸市での感染や、関西在住の男性が麻疹発症後に幕張メッセ(千葉県千葉市)でコンサートに参加していたことなども報道されています。

「大規模コンサートに感染者 2次感染可能性を警告(8月24日)」
http://mainichi.jp/articles/20160825/k00/00m/040/024000c
「はしか、新たに2人 松戸保健所管内(8月22日)」
http://www.chibanippo.co.jp/news/national/345792

麻疹についての基礎知識や予防法については以下が詳しいです。
国立感染症研究所 麻しん」
http://www.nih.go.jp/niid/ja/diseases/ma/measles.html

さて、この状況を招いたことについて、一部ブログや掲示板などでは、
麻疹ワクチン未接種者に対し、感情的な非難がなされています。

確かに、発症者のほとんどはワクチン未接種者であり、
そのためにワクチン接種年齢である1歳に達していない乳児、ワクチン接種を受けたものの免疫がつかなかった人(5%程度いるようです)を危険に晒しているのですから、
批判は当たり前とも思えます。

しかし、麻疹ワクチンを接種していない人にも、接種しなかった理由があるはずです。
理由として考えられるのは以下の3つでしょう。
①体質が原因で接種できなかった
②親が定期接種を忘れていた、あるいは知らなかった
③親が副反応を恐れ、接種させなかった。

①については、もう仕方がないでしょう。対策のしようがありません。
強いて言うならば、
「乳児のときにはアレルギーなどの原因で受けられなかった。しかし成長とともに改善し、受けられるようになった」
という場合にも全額自己負担となってしまう、という制度設計が問題でしょうか。

②についても、本人を責めるのは酷というものでしょう。
しっかり定期接種を受けさせていた親でも、どの予防接種を受けさせたかについては母子手帳を見ないとわからない、という人が多いのですから、
定期接種を忘れていた親が、忘れていたこと自体に気づくとも思えません。
もちろん、普通に乳幼児健診を受けていればおそらく保健師から指摘されます。
しかし、残念ながら乳幼児健診すら受けさせない親が一定数存在するのです。

③について、これが一番問題ですが、これも本人を責めて済む問題ではありません。
むしろ、
ワクチンの効果についてはほとんど報道しないにもかかわらず、ワクチンの副反応を過剰に喧伝するマスコミ、
薬害による訴訟を恐れ、接種を積極的に勧奨しない行政、
感染症は人災ではなく天災であるという日本社会の認識、
そして科学的知識が不足した親、
の四者からの被害者であるとさえ言えるでしょう。

これらのことを考慮すると、真に非難すべきはワクチン未接種者個人ではない、と言えるのではないでしょうか。